象牙色のランデヴー
任務終わり。報告を終え自室へ向かう道中で、何やら聞き慣れない物音が聞こえ足が止まる。
じゃらじゃらという砂利を踏み締めるのに近いようなその音の出処を辿っていくと、何を入れていたかなんて覚えていないような倉庫の扉がほんの少しだけ開いていた。
ここが開いているのなんて、年に数度あるかないかの大掃除の時くらいなもの。日常的に使われる事の無い扉がほんの少しだけ開いているのが不思議で、誰か居るのかと声を投げると一言、入ってきていいぜと呑気な返事が返ってきた。
入っていいと言われても。戸惑う私なんてお構い無しに相変わらず物音だけはじゃらじゃらと響いていて、結局誘われるように倉庫の中へと足が向いた。
倉庫の中には、よく分からない壺や額縁に入った絵画だとかが、想像以上に乱雑に置かれていた。何でほとんど使わない倉庫が散らかるのか……今年はしっかり整理整頓させようと心に決め、棚の群れを抜けていく。
「よっ!お疲れみょうじ」
「中にいたの山本だったんだ。何の音?」
私の気配に気付いたらしい山本が、しゃがみこんだまま振り返りちょいちょいと手招いた。それに吸い寄せられるように近付き背後から覗き見れば、三センチ無いくらいの白い粒が高級そうな木箱の中で沢山転がっている。
「麻雀牌?どうしたのこれ」
「分かんね。けど、多分ツナがどっかのお偉いさんにもらったんじゃねえかなあ」
「ふうん」
何でも、昨日の任務中に笹川さんと麻雀の話になり探しに来たんだとか。久しぶりにやるかって話になってさ。足元に転がる牌を再びじゃらじゃらと混ぜながら、山本はそう続けた。
「私、麻雀牌初めて見た。すごいね」
「触ってみるか?」
「えっ……でもなんかこれ、絶対高級なやつでしょ」
ボンゴレの倉庫にあるんだから、そうでない訳がない。彼の言う通り、ボスがどこかでもらいそのまま倉庫行きになっていたお宝のような代物だろう。木箱なんか、もう見るからに高そうな装飾が施されている。
壊したらやばいと尻込みする私に、山本は平気平気とひと粒差し出した。小さいがひやりとし重みのあるそれを恐る恐る受け取り指で転がす。
「これって、|白《ハツ》……だっけ?」
合ってる?と伺えば、山本が詳しいなと驚いた表情を浮かべる。
「みょうじ、もしかして麻雀分かる?」
「全然。友達に誘われてスマホのアプリゲーちょっと遊んだくらいだよ」
それもすぐやらなくなってしまったから、牌の名前と簡単な役がうろ覚えで頭に入っている程度のもの。なんなら、その簡単な役の名前すら怪しいかもしれないレベルだ。
「そんだけ分かってんなら上出来だって!今度笹川さんとやろうかって話してんだ。みょうじも来いよ」
「私?!面白そうだけど、ほんとに全然覚えてないよ?」
全く相手にならないと思うからと首を振る。そんな私に山本は少し考え、それならと思い付いたように口を開いた。
「みょうじこの後任務?」
「ううん。今帰ってきたとこ」
「なら丁度いいや。今から二人で思い出す会やんね?」
「えっ二人で?」
三麻は聞いた事があるが、麻雀って二人でもやれるものなのか。思わず聞き返すが、ナイスアイデアだろと言わんばかりの笑顔の山本と目が合うだけだった。
ボスへの報告は済んでいる。そもそも今日の任務は簡単なお使いだったので予定的にも問題ない。
――それに。
ちらりと山本視線を向ける。広げていた粒を無造作に箱へ収めたところで、既に移動の準備は万端な様子。
ボンゴレの雨の守護者は意外と頑固だ。言い出したらなかなか引き下がらないのは長い付き合いでよく知っている。
「……なら、お言葉に甘えようかな」
「よっしゃ!決まり!」
じゃあ十五分後に食堂で。彼はそう言い残し、あっという間に部屋から出て行った。その時の後ろ姿がとても楽しそうで、思わず顔が綻んだ。
せっかくのお誘いだし、この前買ったクッキーでも持っていこうか。後を追うように部屋を出る私の足取りも自然と軽くなった。
その後大量のお菓子に出迎えられた私は、かなりふわっとした山本の説明で麻雀を思い出す事になるのだが、それはまた別のお話である。