苦みのアフタヌーン

 今日はとても天気がいい。
 庭のミモザは今年もたっぷりと花を咲かせ、甘く穏やかな空気はとても心地が良い。春の訪れを感じる外の景色をのんびり紅茶を飲みながら眺められたのなら、それはとっても素敵なティータイムになるに違いない。――間違いないのに。

「ありゃかなり出回ってるな」
「あいつ等好き放題しやがって……!」
「で。どうやって潰すんです」
「そうだなあ」

 綺麗なティーカップを片手に男が四人、狭いソファへ腰を下ろしテーブルを囲んでいる。綺麗に咲いた花々を見ているわけでも心地のよい春の陽気を堪能しているわけでは勿論なく、聞こえてくるのはやばい薬だとかぶっ潰すだとかの物騒なワードチョイスだけだった。
 ああ、折角のいい茶葉が勿体ない。彼らが狭いソファに腰を落ち着かせ仲良くお花見などする面子でないことくらい、よく分かっているつもり。これが日常。いつもと同じ風景である。それでもため息を吐いてしまうくらいには、窓の外には青空が広がっていた。

「なまえ聞いてる?」
「ちゃんと聞いてるわよ。オストリカファミリーがうちのシマでヤクばら撒いて超腹立つ、って話」

 あってるでしょう?とティーカップを空にする。
 ここはボンゴレ十代目の執務室。集まっているのはこの部屋の主である沢田綱吉とその部下たちだ。嵐と雨と霧、それからたまたま通りかかってしまった私。
 なんでもボンゴレと反目しているファミリーが、ついにうちの管轄で暴れ始めたのだとか。今日は偵察に出ていた山本から報告を聞きつつ、どう対処していくのかの打ち合わせだったらしい。そこへ私が運悪く任務帰りの報告で足を運んでしまったのだ。
 さっさと帰ればよかったものを、骸には男ばかりで心底うんざりしていたんですとにティーカップを渡され、ボスなんて戸棚から高そうなお菓子の缶まで引っ張り出してきて。まあそんな感じで、美味しいお茶菓子と紅茶で買収された私は、あっという間にボスの隣へ腰を落ち着かせる羽目になった訳だ。
 
「あいつらがヤク撒いてるのってもしかして……あのカジノ?」
「そ。どうも連中、ディーラーと客の中にうまく紛れたらしくてな」

 あれは確か一年程前の事だったか。キャッバローネに用がありボスと二人で遠出したことがある。その帰りに少しだけ港町まで足を伸ばしたのだけど、そこで地元のギャングからカジノに興味はないかと声を掛けられたのだ。二人ともカジュアルな装いだったし、なによりアジア系の二人がうろうろしてた様は文字通り”鴨がネギを背負ってきた”。そんな状態だったのだろう。
 普段ならそんなもの一蹴しているのだけど、あの時はボスの気まぐれでホイホイついていったのだっけ。結局連れていかれた先は彼らが縄張りにしている裏カジノだったわけだが、たぶんあの時のボスは超直感で何か気付いていたのだと思う。
 奴らは観光客などの一般人を誘い込み法外な掛け金とイカサマで破産させるだけでなく、その返済方法として臓器売買を促していた。それが結果としてボスの逆鱗に触れたのだ。無関係の一般人を巻き込むことを、歴代きっての穏健派は許せるはずがなかった。ボスがその場でグループごと壊滅させ、その後カジノはボンゴレの監視下に置かれる事となる。

「監視下に置いておきながらネズミに入られるなんて情けない」
「うーん耳が痛い……。けど俺も、今回は詰めが甘かったと思ってるよ」
「結局、あの件は本丸叩けず仕舞いでしたからね」
 
 呆れた様子で首を横に振る骸と深いため息を吐いて項垂れるボス。その隣ではしかめっ面の隼人が眉間を抑えていた。
 グループごと壊滅させたものの、あのギャング達が独自の売買ルートを確保していたとは考えにくい。間違いなく裏にもっと大きな組織がいたはずなのだ。それなのに、ボスが問い詰めても結局彼らから情報を得ることはできなかった。

「恐らくだけど、オストリカは前回の件にも一枚噛んでると睨んでる」
「オレもツナに同意。例の件で取り逃がした関係者がいたのはお前らも知ってるよな?」
「大方、そいつ等が今回潜り込んできた“ネズミ”ってとこか」
「さっさと乗り込んで潰してしまえばいいでしょう」
「いや、それじゃだめだ。万が一見当外れだったときが怖い」

 正直骸の気持ちも分からなくないのだが、確かに万が一を考えると慎重に進めた方がいいだろう。前回の取り逃がしが原因だとしたら余計に。同じ失敗はもう許されない。確実に原因を叩かないと意味がなかった。
 ――だとしたらもう。

「正攻法で殴りこむしかなくない?確かボス、賭け事得意だったわよね」
 
 そう言いながらボスの出してくれたクッキー缶に手を伸ばす。
 得意というか超直感で無双するアレ。もうチートの域で負け無しなのだから、正々堂々とカジノで潰してやればいいのだ。
 そう軽い気持ちで口にした提案だったが、クッキー缶から目を上げると男連中は目を見開いて固まっていた。そのおかしな状況に思わず私の手も止まる。

「え、何?やだ……変なこと言ったかしら」
「……それだ」
「でかしたなまえ!十代目これで行きましょう!」
「確かに、貴方ギャンブルの才能ありますよ」
「ツナと賭けで負けたことないし、適任じゃね?」
「どうやら作戦の核が決まったらしいわね……」
 
 楽しそうなボスの目の奥は悪戯っぽく輝いた。