ぶれない愛情

「相変わらず注意力がなさすぎる」
「わ、私もそう思う……」

 ギプスと包帯でぐるぐるガチガチに固定された私の右腕を横目に、ため息をつきながらマツバが眉間のシワを伸ばしている。先ほど全治3週間と言われた右腕の骨折は、言うのも恥ずかしいくらい間抜けな理由なので彼の言葉にはぐうの音も出なかった。
 思えば昔から、人より少しそそっかしくて、少し視野が狭く、少し怪我の多い人生だった。私が怪我をする度にマツバは血相を変えすっ飛んできて、屋敷までおぶってあれこれ世話を焼いてくれたのが懐かしい。15歳を過ぎたあたりからは有り難くない説教もセットになったし、今回も例外ではなく何処でいつ何をしてどうなってこうなったのか、病院に着くまでの道中でしっかりと吐かされたっぷりと説教を聞かされている。

「まさかヒビが入ってたとはねえ」
「全く……、すぐ病院に連れてきて正解だったなあ」
「毎回毎回、お騒がせしております」
「なまえはもう少し落ち着きをもって行動した方がいいと思う」

 ごもっともすぎてマツバには足向けて寝れないよ、なんて冗談を言いながら空元気に笑う。私の笑い声をマツバは笑いごとじゃないと、憐れみの混ざる呆れた視線と共に一蹴した。

「とりあえず!しばらくジムは閉めるし、家事は僕がするからしっかり大人しくしているように」
「えっ、それは流石に悪いよ!別に滅茶苦茶に動かなければ大丈夫なんだけど」
「丁度まとまった休みをとれって協会に言われてたから丁度いいさ。休暇届はもう出したし諦めて大人しくしてろ」

 顔をしかめながら「僕がいないとその間はしっかり動き回るだろう」なんて、行動パターンまで読まれてしまってはもう観念する他にない。そんなこんなで、あっという間にマツバの3週間にも及ぶ超大型長期連休の予定が決まり、私は大人しく世話を焼かれることとなったのだ。
 とは言っても、やはり私はじっとしていられない性分で、手持ち無沙汰になるとつい何かやる事はないか探してしまう。マツバが洗濯物を干していればハンガーは足りているか確認してしまうし、掃除をしていれば片手でやれることは無いかとたずねたりと、家事をこなすマツバの後ろをついて回っていたら、一言、鬱陶しい!と怒られてしまった。
 右腕を折ってしまったのは不覚だった。何かやろうにも片手ではやれることも限られてしまう。洗濯物は干せないし、雑巾も絞れない。それから、なんといっても右は私の利き手である。これはもしかしなくても、お風呂すら自分で入るのはままならない気がしてきて少しげんなりとする。利き手が使えないことがこんなにも大変だなんて思ってもいなかった……!心の中で悪態をつくが、だからといって3か月のギプスでかちこち期間は短くはならないのだ。

「私ってほんと役立たずだよねえ……」

 隣でニタニタと笑っていたゲンガーに愚痴をこぼす。どうせ私が動かないか見張るよう言いつけられたのだろう。ゲンガーですら仕事しているというのに私は……。そんな私の気持ちを汲み取ったのか、ゲンガーは心無しか憐れみの表情を覗かせた。

「腹立つなその顔!」
「ゲンゲーン」
「わかってるよぉ……見張らなくても動かないから大丈夫」

 しっしっと追い払うジェスチャーをするとゲンガーはあっさり消えていった。
 追い払ったものの、1人になると物寂しい。からかいに来ただけのようなゲンガーも、案外暇つぶし相手にはなっていたわけだ。案外その天井のすみのあたりにかくれていたりするかもしれない。あんなお調子者だが、マツバのいうことは絶対守る子だ。私が追い払ったから姿を消しながらも監視していたりなんかして。

「ゲンガー、私が悪かったから戻っておいで」
「……」
「……居ないかあ、なら今の隙に」
「ゲン!ゲンゲン!」

ほらやっぱりいた。立ち上がる素振りを見せると、私の足はピタッっと動かなくなってしまった。おおよそ、マツバからの言いつけはこんなところだろう。

「何がなんでも移動させるな、場合によっては技かけていいぞ……ってとこね?」
「ゲンゲン」
「相変わらずゲンガーはマツバのいうことだけはよく聞くよね」

私にその気がないと分かったのか技を解いてくれた。マツバめ、怪我人相手でも容赦ない男だ。ここまできたらもう大人しくゲンガーに相手をしてもらっていた方がいいような気がして、空いていた隣の床をぽんぽんと叩いてみせる。現れたゲンガーは相変わらずニシシと笑っていた。