あおいリボン
ピコピコと軽やかな音楽と共に戦闘が開始された。青色のリボンがトレードマークの美少女戦士ちゃんが、必殺技の回し蹴りで対戦相手を蹴散らしていく。それはもう無駄の無い動きで爽やかに。
操作をしているのは私、と胸を張って言いたいのだが残念ながらプレイヤーは二口堅治。彼とは小学校の頃からの腐れ縁の仲だ。
「格ゲーなんてできないくせに何で買うんだよ。ばかじゃん」
堅治の容赦ない言葉にぐうの音も出ず押し黙る。間違いないんだけども、なんというか……、もっと優しく言ってほしいものだ。まあこいつの言う通り格ゲーが苦手なのは間違いないんだけど。
格ゲーだけは昔から何度練習しても勝ったためしが無かった。どのくらいかって、NPCにすら勝てないほどである。かといってシューティングやパズルゲームも得意とは言えなくて、どちらかと言えば時間をかけて物語を進める推理ゲームやRPGが好きだった。
さて。そんな我が家には格ゲーのソフトが沢山ある。あれの新作がでるぞと誰に教えてもらうわけでもないのに、シリーズものだってきちんと集めているのだ。ちなみにこれら全て、堅治によって攻略済みなのは言うまでもないだろう。
もちろんRPGや推理ゲームが少ないわけではないが、それ以上に格ゲーが多かった。なんで出来もしないのに集めてしまうのか、正直自分でもよく分かっていないのだけど。気付いたら、目についたら手が伸びてしまっている。結局自力でクリアする事ができず、毎回二口に代わりを頼むのである。
「ねえどこまでいった?」
「んー……」
進行具合を聞きながら、二口と背中合わせになるように体操座りをする。問いかけに対する答えは返ってこなかった。代わりに聞こえるのはかちゃかちゃというゲーム機のボタンが擦れる音。二口の視線は勿論手元の液晶画面。
なんだか少しむっとしたので、仰け反って背中に体重をかけてみる。何も言わないからどんどん傾けていくと、重いし邪魔だからどけと怒られた。邪魔とはなんだちくしょう。構わん、続行だ。
「どこまでいったって聞いてんでしょお」
「いでで!おい!やめろ死ぬ潰れる」
ぐいぐいと勢いをつけて押していけば、ぐえっと蛙が潰れたようなうめき声が聞こえてきた。しばらくするとマジ死ぬからと騒ぎ始めたのでやめてやった。私も仰け反りすぎて背骨が痛かったし、そもそも何でむっとしたんだっけ……?
再びきちんと体操座りになり、大人しくゲームが終るのを待つことにする。彼曰くあと少しらしい。
かちゃかちゃというボタンが鳴る音を聞きながら、今度はゆっくりくっつけるようにして体重を預けてみると、それを支えるみたいにほんの少しだけ押し返してきた。お互いの体温がくっついた背中でじわりと混ざって心地がいい。春特有の暖かさと何もやる事が無いのも重なり、ついうとうとしてしまう。
「おーい。起きろって」
「んん……」
強めに揺らされ閉じかかっていた瞼を擦る。
終ったのかと尋ねると、自慢げにゲーム機を渡され、画面を見れば美少女戦士ちゃんがかわいらしくガッツポーズを構え喜んでいるところだった。そして上端に大きく“ゲームクリア“の文字。どうやら無事クリアできたらしい。
疲れた疲れたと苦い顔でぐるぐる肩を回しているが、どことなく満足げな二口。それを見て頬が緩む。そして気がついた。気がついてしまった。
「あっ……」
なんで格ゲーばっかり買ってしまうのか。
長らく謎だったその原因が、今やっと分かったような気がする。もしかして私、ゲームをクリアした後の二口の満足そうな顔が見たかったとか?いやいやまさか。なんだか信じられないような理由だし、何より認めたくない。それはもう、ものすごーく認めたくない。だけど悔しいことにこれ以外にしっくりくる理由が思いつかない。だって、そんなの、まるで。
「何、どうした」
「困った」
「は?」
こいつの事が好きみたいじゃない。